ある日の晩、久兵衛は1つの丸い花火を抱えて、 あの湿原にやってきました。 シロを驚かせないよう、少し離れた場所で花火 を打ち上げる為です。 「シロ、見てくれ。お前の心に届くよう、 一生懸命作ったんだ。」

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豆太は、真夜中に、ひょっと目をさました。

頭の上で、くまのうなり声が聞こえたからだ。






「じさまぁっ」










むちゅうでじさまにしがみつこうとしたが、じさまはいない。

ま、豆太、心配すんな。じさまは、じさまは、ちょっとはらがいてえだけだ

まくら元で、くまみたいに体を丸めてうなっていたのは、じさまだった。




『医者様をよばなくっちゃ』





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豆太は、小犬みたいに体を丸めて、

表戸を体でふっとばして走りだした。






・・・・ねまきのまんま・・・・・




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・・・・はだしで・・・・



 半道もある ふもとの村まで 外は すごい星で、月も出ていた。

霜が足にかみついた。  足から血が出た。 豆太は、なきなき走った。

いたくて、寒くて、こわかったからなぁ。

でも、大すきなじさまの死んじまうほうが、もっとこわかったから、  

なきなき ふもとの 医者様へ走った。










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年よりじさまの医者様は、豆太からわけを聞くと、


「オゥオゥ・・・」と言って ねんねこバンテンに薬箱と豆太を おぶうと


真夜中の峠道を、エッチラ、オッチラじさまの小屋へのぼってきた。


途中で、月が出てるのに、雪がふり始めた。



この冬はじめての雪だ。 豆太は、そいつをねんねこの中から見た。
 

そして医者さまの腰を足でドンドンけとばした。


じさまがなんだか死んじまいそうな気がしたからな。


豆太は、小屋へ入るとき、もう一つふしぎなものを見た。
 







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「モチモチの木に、灯がついている」






『あ、ほんとだ。まるで、灯がついたようだ。

だども、あれは、 とちの木の後ろにちょうど月が出てきて、

えだの間に星が光ってるんだ。

そこに雪がふってるから、明かりがついたように見えるんだべ。」



と言って、小屋の中へ入ってしまった。



だから、豆太はその後は知らない。

医者様のてつだいをして、カマドにマキをくべたり、


湯をわかしたりなんだり、 忙しかったからな。








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でも、次の朝、はらいたがなおって元気になったじさまは、


医者様の帰った後で、こう言った。


『 おまえは、山の神様の祭りを見たんだ。モチモチの木には、
灯がついたんだ。


おまえは、一人で、夜道を医者様よびに行けるほど、

勇気のある子どもだったんだからな。


自分で自分を弱虫だなんて思うな。  


人間、やさしささえあれば、 やらなきゃならねえことはきっとやるもんだ


それを見て、他人がびっくらするわけよ。は、は、は。 』


それでも、豆太は、じさまが元気になると、そのばんから、


じさまぁ」  


と、しょんべんにじさまを起こしたとさ。





おしまい





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