ある日の晩、久兵衛は1つの丸い花火を抱えて、 あの湿原にやってきました。 シロを驚かせないよう、少し離れた場所で花火 を打ち上げる為です。 「シロ、見てくれ。お前の心に届くよう、 一生懸命作ったんだ。」



7

木がおこって、両手で、「お化けぇ」って

上からおどかすんだ。夜のモチモチの木は、そっちを見ただけで、

もう、しょんべんなんか出なくなっちまう。


8

じさまが、しゃがんだひざの中に豆太をかかえて、

「ああ、いい夜だ。星に手がとどきそうだ。

おく山じゃぁ、しかや くまめら
が、

鼻ぢょうちん出して、ねっこけてやがるべ。


『それ、シイーッ』 って言ってくれなきゃ、とっても出やしない。


しないでねると、あしたの朝、とこの中がこう水になっちまうもんだから、


じさまは、かならずそうしてくれるんだ。


五つになって「シー」なんて、
みっともないやなぁ。


でも、豆太は、そうしなくっちゃだめなんだ。  





そのモチモチの木に、今夜は、灯がともるばんなんだそうだ。

じさまが言った。 「霜月の二十日のうしみつにゃぁ、モチモチの木に

灯がともる。 起きてて見てみろ。そりゃぁ、きれいだ。 おらも、子どものころ

に見たことがある。  死んだおまえのおとうも見たそうだ。 山の神様のお祭り

なんだ。 それは、一人の子どもしか、見ることはできねえ。

それも、勇気のある子どもだけだ」


10

「それじゃぁ、おらは、とってもだめだ」

豆太は、ちっちゃい声で、なきそうに言った。  

だって、じさまもおとうも見たんなら、自分も見たかったけど、 こんな冬の

真夜中に、モチモチの木を、 それも、たった一人で見に出るなんて、

とんでもねえ話だ。  ぶるぶるだ。  

豆太は、はじめっからあきらめて、ふとんにもぐりこむと、

じさまのたばこくさいむねん中に鼻をおしつけて、

よいのロからねてしまった。


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